小悪魔は愛を食べる
「芽衣ちゃん、今年でいくつだったかしら?十八?」
「はい」
頷く芽衣に、そっかぁと美央が感慨深そうに言う。
「私がね、駆け落ちしたのも十八歳の時だったのよねぇ。もう二十年近く昔だけど…。あの頃はね、お父さんがすごく嫌いだったのよ、私。それで、高校卒業してすぐに駆け落ち。今考えると笑っちゃうけど、あの時は本当に運命だと思ってたのよ。あの人と私は、運命で結ばれてるって。間違ってなんかないって。けど、人生ってそう上手くいかないものだったみたい。やっぱり私は世間知らずの馬鹿で、初恋だって、運命だって騒いで駆け落ちして、結局捨てられて。残ったのは借金とボロボロの体だけ。本当、今考えると笑っちゃうんだけど、ありきたり過ぎて喜劇にも悲劇にもなんないわね。きっと」
自らを明るく嘲る美央に、芽衣が「人生、間違たって思う?」と訊く。しかし美央は否定も肯定もしなかった。
「どうだろう。ただね、時々考えるのは、あの頃もう少しお父さんの言うことに耳を傾けてたら、今頃は結婚して子供生んで、幸せな老後を待つだけな生活だったかもしれないのにって。それくらいかな」
過去を思い出すように語る美央の表情に後悔や苦渋はなかった。芽衣が詰めていた息を緩く吐き出す。
「ま、離婚したものの結婚の経験はあるし、子供はいないけど今は幸せだから、これといって悔いはないんだけど。でもやっぱり子供は欲しかったかな」
よし終わり。と美央が先程芽衣が脱いだ服を拾って手渡す。受け取った芽衣がそれを着ている間に美央はメジャーを裁縫箱の中に片付けてメモと睨めっこ。
「うーん。芽衣ちゃんは色が白くて黒髪だから、色は絶対赤が似合うと思うのよねぇ。柄は蝶々か牡丹かしら。紗江子ちゃんにも訊いてみなきゃ。けど、芽衣ちゃんちょっと痩せ過ぎじゃない?この辺とかもう少し肉付いててもいいと」
「わひゃう!!」
「あら、ごめんなさい」
不意にお尻を撫でられ悲鳴を上げた芽衣に、美央が苦笑して謝る。
芽衣の照れを含んだ気まずそうな視線が可愛らしい。
くすりと笑みを溢して美央は芽衣を見詰めた。