小悪魔は愛を食べる
* * *
深夜に近い時間、紗江子の車のエンジン音が敷地内を唸りながら徐行し、裏庭の隅に横付けされた。
車から下りた紗江子は迎えに来た真紘に荷物を手渡し、裏の勝手口から呼称の通りまさに勝手に中へ入っていった。
真紘もそれを追って、中へ戻る。と、真紘が出るまではいなかった美央が紗江子に早速浴衣の柄は蝶々と牡丹ならどっちがいいかと訊いていた。
紗江子は美央の問いに少々頭を捻って悩む仕草をし、「芽衣ちゃんは蝶々かしら?」と答える。
ねえ?と振られて、真紘も頷いた。
「よし。なら蝶々にするね」
「生地は特注?」
「当然。芽衣ちゃんに既製品なんてお父さんが許さないわ」
意気揚々と言い切った美央に、紗江子と真紘が顔を見合わせて忍び笑った。
それから一呼吸置いて、今度は紗江子が美央に訊ねる。
「壱弥と芽衣ちゃんは?」
美央が答える前に真紘が「ああ、僕の部屋で寝てる」と言う。紗江子が何か考え込むように顎に手を当てた。
「泊める?」
「いや、それは駄目だろう。明日学校なんだから」
「休ませたら?」
「それが母親の言う言葉ですか紗江子さん」
呆れた真紘の声音に、紗江子が唇を突き出して「だってぇ」と甘えた声を出した。