乾いた瞳
「……そんなわけ、ない。」
心の言葉とは裏腹に、かすれた声が流れ出た。
口は、いつも思い通りに動いてはくれない。
「ふうん。……あ。」
「今度は何?」
私はギロリと男を睨みつけた。
「ねえ、君、俺と前に会ったことない?」
「……無いに決まってるじゃない。
さよなら。」
私はすたすたと早足でその場を去った。
ほんとうに、へんなひと。
ああ、時間が無駄になった。
まったく、あの男のせいだ。
空っぽの手のひらを見て、改めて気づく。
ああ、捨てたんだった。
これで終わったんだ。
これで全ては消えたんだ。
唐突に虚しくなってきて、何だか無性に泣きたくなった。