Ki・ro

・メモ

「午後7時、サンタフェ」


書類の束の上に乗った小さなメモ紙を受け取ったのは、今日の会議直前のことだった。


真崎からの連絡は、いつも唐突だ。


「少しの時間でも捻出できれば、君と二人でいたいのだから、」


それが真崎の言い分だった。


「今どき、ケータイ電話があるというのに・・・」


という葵に向かって


「誰かに見られたらどうするの。


ケータイっていうのが一番危ないらしいじゃないか・・・」


「誰かって・・・奥さん、ね?」


言いかかって、止めた。



以来、待ち合わせを知らせてくるのは、真崎からで、いつも小さなメモ紙となった。


真崎との関係は早三年になっている。



会社の慰安旅行で、上司たちから、飲めないお酒を無理矢理飲まされた葵を介抱してくれたのが真崎だった。


その後、優しく頼りがいのある真崎にプライベートまで相談するようになった。


ほどなく男女の関係が始まった。


「とても、よくある話」である。
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