青春ing
 あいつの方が、面白い話や気の利いたことをしてくれるかもしれない。一緒に居る時間が限られている俺よりも、好きな時に会えるあいつと付き合う方が、真奈瀬にとっては幸せなのかもしれない。欲しいものに我儘に手を伸ばすのがいいのか、それとも思いやって手を引くのがいいのか、俺には全然分からなかった。

 考えることが面倒になって、マネージャーに頼んで仕事を増やしてみたり、一人でフラッと遠出してみたりした。それで、問題が解決する訳なんかないのに。溜め息の理由は、自分でもよく分かっている。だから、何もできない自分が凄く嫌になった。そんな時だった。



「あっれー?美隼君だ。最近一人だよね。」



 俺と同じ色の髪。「元気?」と声をかけながら近付いてきたのは、前までしつこくアタックされていた比奈子ちゃんだった。“同じ色にしたくて美容院で頼んできた”と言われた時は、ファンが身近に居るんだと分かって、少しだけ嬉しかったような気がする。まぁ、あれは過剰なアプローチをされる前の話だったからなんだけどね。



「比奈子ちゃんこそ、最近大人しいじゃん。前はウザかったよね、正直。」

「何それ、ひっどーい!石川さんを渋沢君に取られちゃったから、イライラしてるんじゃないの?」



 内心、ドキッとした。比奈子ちゃんは「あ、図星だ」と笑っただけで、特に気にしてはいないらしい。最低だ、俺。思い通りに行かないからって、人に当たるなんて。口を閉ざしてしまった俺を無視して、比奈子ちゃんは一方的に話し続けた。
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