青春ing
 息をする度に、白い煙がふわりと漂う。きちんと向き合うのは、何だか凄く久し振りのような気がした。この顔を、ずっと見ていなかったような気がするから。



「……俺さ。お前とは、ただの幼なじみのままじゃ嫌なんだけど。」

「……それってどういうこと?ちゃんと分かるように言ってよ。」

「……俺が、真奈瀬を好きだってこと。お前は、どうなんだよ。」

「……あのね。私も、次に二人きりになったら、おんなじこと言おうって思ってたんだ。」



 “大好きだよ、美隼。”夢のような台詞に、これはもしかして夢なんじゃないだろうかと、思わず頬をつねってみる。じわじわと、痛い。良かった……夢なんかじゃ、なかったんだ。



「……寒いな、ここ。」

「うん、そうだね……」

「……だから、良いだろ?」



 ――今が冬で、良かった。そんなことを思いながら、華奢な体を、そっと抱き締めてみる。

 幼なじみの距離感に甘えて、俺達はお互いに、それを壊すことをしてこなかった。だけどその関係も、今日でおしまい。俺もそろそろ、素直になろうかな、なんて思う。



「……嬉しい。俺、今すっごく幸せだ。」

「うん、私も!美隼、仕事で遠距離恋愛になっても大丈夫だって言ってくれたもんね!」

「……そんなこと言ったか?あぁ、でも、似たようなもんか……」

「言ったよー!この前おばさんから、美隼がフランスで仕事するかもって聞いて不安だったんだけど、毎日電話してくれるんだよね?」

「毎日!?それは流石に……」

「……ダメなの?」



 捨てられた小犬みたいな目で見つめてくる真奈瀬を見ていたら、思わず“良いよ”と言ってしまいそうになったけど。いざ約束してしまっても、あまり守れる自信がない。そもそも、今だってそんなに頻繁に連絡を取り合うような間柄じゃないのに。



「……メールの返事は絶対するから、それで勘弁してくれない?それに、フランス行くのは1ヶ月くらいだから。すぐに帰ってくるし、いい子にして待ってろよな。」

「……うん!いい子で待ってる!うふふ、何か新婚さんみたいだね!」

「おまっ、何言ってるんだよ!恥ずかしい奴だな!」



 ようやく思いが通じ合ったばっかりなのに、もう結婚を連想するなんて。でも、本当にそうなったらいいのにって思ったことは、まだ内緒だ。そういう風になるには、キャリアもお金も、もっと積まないといけないだろうから。

 ――授業開始のチャイムが、遠くで鳴っている。そろそろ教室に戻ろうか。冷えてきた屋上で、一度だけ、ゆっくりと唇を重ねる。やけに緊張して、顔なんて全然見られなかったけど。触れ合った部分が柔らかかったことだけは、しばらく頭の中から離れなかった。
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