青春ing
「……オレに一目惚れしたから、付き合ってくれって言っただろ。遅くなったけど、まだオレのことが好きだっていうなら有効だよな?」

「……えっ!?それって、健ちゃんがウチの彼氏になってくれるってこと!?」

「簡潔に言うと、そういうこと。どうかな?」

「もちろんOKだよ!やったー!!明日翠ちゃん達に報告しなきゃ!!」



 ちょっと待ってくれ。もしかして、家族全員に報告するつもりなのか……勘弁してくれと思ったけど、どうやら止めても無駄なようだ。もう勝手にしてくれと返して、卒業までの日数は、なるべく登下校を共にすることにして、お互いの家に帰った。

 帰宅すると、母親が玄関で出迎えてくれた。いつもの「お帰りなさい」に、いつもの「ただいま」を返す。すると、母がふと口にした。



「健、何かいいことあったの?」

「……え?」

「何だか嬉しそうな顔してるから。最近お母さんの話も聞いてくれるし、お勉強ばかりに根を詰めてるわけでもないみたいだしね。」

「……母親ってみんなそうなの?何だか怖いんだけど。」



 琥珀が家族に報告すると言っていたのを思い出して、ボソリと口にした、「……彼女ができた」の言葉。途端に母の顔がぱあっと明るくなって、「まぁ素敵!今度お家に連れてきなさいね!」と言う。どうせ琥珀に、必要以上に絡むつもりだろう。だから言いたくなかったんだ……まぁ、嬉しそうな母親を見るのは久し振りだから、これはこれでいいのかもしれないけど。

 ――仕方がないから、あとで在にもメールで報告しておくか。すぐに電話がかかってくるんだろうなと思いながら、ご飯にするという母の言葉に頷いて、父が待っているであろうリビングに向かう。今日は何年ぶりかに、政治や勉強以外の話ができそうだ。
< 121 / 129 >

この作品をシェア

pagetop