青春ing
 羞恥で顔を真っ赤に染めて、店を飛び出して行く女。勿論、追いかけはしなかったわけだけど。あんな女、ドラマの中だけの話だと思ってた。こんなに身近に居たなんて、世も末だろうか。



「びっくりしたぁ……健ちゃん、大丈夫だった?痛そう……」



 去り際に頬を張られたので、確かにヒリヒリと痛む。まったく、殴りたいのはオレの方だっていうのに……でも、琥珀に撫でられていたら、その痛みも少し和らいでいくようだった。



「井上さん、そろそろ上がっていいよ。今日は落ち着いてるし、あとは俺達でやるからさ。彼氏も来てるんだし、これから二人で、何処か行くんでしょ?」

「はい!レイトショー見て、それからお家にお邪魔しようかなって思ってて……」

「へぇ、いいねぇ。じゃあ、お疲れ様。良かったらこれ、二人で食べて。」



 作りすぎてしまったというマフィンをもらって、制服から私服に着替えた琥珀を連れて、映画館へと向かう。あんなに目立っていた金髪が明るい茶髪になって、化粧が控えめになっただけで、随分印象か変わるものだ。この前、在の彼女と友達になったらしいが、前の外見のままだったら、確実に知り合いにはなれなかっただろう。あの子は確か、大人しいタイプだったはずだから。

 でも、それも偏見かもしれないな。オレだって、まさかこんな女を好きになって、付き合うことになるなんて思わなかったし。ふいに隣を見てみたら、視線が交わる。照れた笑顔に思わずドキッとしたのは、彼女には黙っておこう。



「ねぇ、健ちゃん。手、繋いでもいい?」

「あぁ、いいけど。」

「やったー!ウチ、健ちゃんの手好きなんだよね。モデルさんの手みたいで。」

「おいこら、ベタベタ触るな……」



 ――文句を言いながら、目的地までの道のりを行く。これから先、予想外のことは、色々あるのかもしれないけど。全部を受け入れて、自分なりにやっていけたらいいのだろうと思う。今オレの側に居てくれる、彼女と共に。



Side Ken
Happy Ending!
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