青春ing
 朝練終了を伝えるさっちゃんの声で、あたし達は彼女の周りにザッと集まる。みんながあたしを見つめている。監督に続くキャプテンの一言がないと、朝練は終わらないからだ。



「気をつけ!さっちゃんに礼!」

「ありがとうございましたーっ!!」



 今日のグラウンドならしは野球部の皆様がやってくれるそうで、あたし達は向こう側の彼らにキャップを掲げてお礼の気持ちを示す。彼らも同じようにサッとキャップを取り、爽やかな笑みを返してくれた。

 隣を歩く香子に、1限目に答え合わせをする数学の課題について質問しようとした時。後ろから、あたしの名前を呼ぶ声がした。



「山沖(やまおき)ーっ!ちょい待って!!」

「高須賀(たかすか)じゃん。どしたの?」

「お前、ほんと野球やれって!今は現役女子高生がプロ野球にドラフト指名される時代だぜ!?マジで野球部来いよ!!」



 今からでも遅くないとばかりに力説を続ける、クラスメイトの高須賀力哉(りきや)。坊主頭に切れ長の瞳が印象的な、背の高い男の子だ。

 2年の時にあたしがMAX113キロを投げると教えてやったら、「野球に置き換えると体感速度150キロくらいだぜ!?」と勝手に大興奮。以来、どうしてもあたしを野球界へ引き込みたいらしいんだよね。
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