青春ing
 材料が運ばれてくると、まずは焼きにかかる。勉強は、腹ごしらえしてからだ。



「あ。ウチがやるから、二人は勉強してていいよ。」

「ほんと!?助かるよー!」

「おいおい、一番酷い成績の奴が何言って……」



 いつの間に具材を混ぜていたのか、鉄板の上に広げている井上。生地をひっくり返す手つきも鮮やかで、素で驚いてしまった。



「へぇー……琥珀ちゃんって料理得意だったりする?」

「え、何で?」

「だって、こういうの上手い人って料理上手っぽいじゃん!」

「たまたまだよ。練習したから、できるようになっただけ!」



 鼻唄を歌いながら、次々にお好み焼きを作っていく井上。店主のおじさんが「おっ!姉ちゃん、なかなか上手いなぁ」と言えば、おばさんは「ウチでバイトしない?」と笑う。井上は、「考えときますー」と楽天的に返していた。こっちとしては、そんなことより成績の心配をして欲しいものだが。

 お腹が膨れると、さて勉強だと参考書を広げる。文字や数式の羅列から目を背けようとする二人を何とか集中させることに成功し、なるべく分かりやすい言葉を選びながら、丁寧に解説してやった。



「ありがとう!やっぱ健の説明は分かりやすいなー!」

「もう健ちゃんが授業進めちゃえばいいのにね。ぶっちゃけ、先生の説明って全然分かんないし。」

「失礼だろ、井上。まぁ、確かに授業の進め方が下手な教師はゴロゴロ居るけどな。」

「健ちゃんだって失礼じゃん!ウケるー!!」



 テーブルをバンバン叩きながら、豪快に笑う井上。つい先程家庭的な一面を垣間見ただけに、残念な気持ちになった。

 ――やっぱり、こいつはうるさいギャルだ。マナーも何もありゃしない。
< 74 / 129 >

この作品をシェア

pagetop