青春ing
 暑さも最高潮になる時期には、息抜きにコンビニへアイスを買いに行ったり、それぞれの好きなDVDを持ち寄って鑑賞したりした。そこで、意外にも井上と映画の趣味が合うことを発見したのだった。



「へぇー……井上って、アクション映画が好きだったんだな。恋愛ものしか観ないと思ってた。」

「えー?ウチ、アクションものが一番好きだよ?その中に、ちょこっと恋愛があるのが好きなの!」

「まぁ、それくらいのバランスがベストだよな。」



 終始“恋愛してます”という雰囲気だと、どうも体が受け付けなくて吐き気がする。それを話したら、「分かる!何か、恥ずかしくなっちゃうよねー」と返ってきた。あのむずがゆい感じが、どうやら井上も苦手らしい。



「あ、ジュースもうないや。俺、買ってくるね!ついでにお菓子も買ってくるから!」

「山本さん。スーパーで買った方が安いから、私もついていきます。」



 在に続いて、井上の妹が立ち上がる。二人を見送ったら、必然的に、オレと井上の二人きりになった。

 あいつらが帰ってきたら、勉強再開するか。そう思った時、不意に井上が口を開いた。



「ねぇ、健ちゃん。」

「何だ?」

「あのさ、ちょっとウチのこと名前で呼んでみてよ。」

「……は?」



 一体何故、このタイミングで。もしや、二人きりになったからか。

 そういえば、忘れていたが、こいつはオレに気があるんだったか。在は井上を推しているようだが、オレとしては全く好みのタイプと違うので、どうなのかという気分になる。

 でも、そもそも自分はこの女とはあまり関わりたくなかった筈なのに、今は特にそうは思わない。よく話すようになって内面を知ったから、苦手意識が取れたのだろうか。というよりむしろ……一緒に居て“楽しい”と思っている自分に、内心とても驚いている。
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