青春ｉｎｇ

「あ、一つお願いがあるんですけど。」

「うん。何？」

「付き合うからには、名前で呼んでもらいたいんですよね。ほら、俺だけ“佐桜花さん”って呼んでるのもアレだし。」



　確かに、そうかもしれない。頷いて、「じゃあ、竜泉君で」と返す。満足げに首を振る所を見ていたら、何だかこっちまで嬉しくなってしまった。

　帰るまでにはまだ時間があったから、好きなテレビや漫画、学校のことなど、色んな話をした。不思議なんだけど、竜泉君と喋っていると、全然気を使わなくて良い。見た目のことばかり気にしてたけど、一番大事なのは、“一緒に居て楽しいと感じること”なんだと思えた。竜泉君に出会わなかったら、多分一生気付くことはなかったんだろうな。



「あたし、竜泉君に会ってから、新しいことに出会ってばっかりだ。」

「そうなんですか？俺も佐桜花さんと知り合えてから、毎日楽しいです！」



　笑い合った、丁度その時。玄関のドアが開く音がして、妙な緊張感が襲ってくる。どうやら、竜泉君の家族が帰ってきたみたいだ。



「竜泉、ただいま。お客様かしら？」



　ふわふわした茶色のロングヘアーの、小柄で優しそうな女の人。笑った顔が、竜泉君にそっくりだった。隣には背の高い、短い黒髪の男の人も居る。千代美が好きそうな、俗に言うイケメンって感じの人だった。彼の腕の中には、小さな男の子がちょこんと収まっている。



「あ、あの、お邪魔してます！」



　勢い良く頭を下げると、「佐桜花さん、また体育会だし！」と笑われてしまった。くそう、クセなんだよ。仕方ないじゃんか。そう思っていたら、竜泉君のご両親が、ニコニコしながら話しかけてくれた。