青春ing
モヤモヤした気持ちのまま、帰りのホームルームを迎える。今日は仕事がないから、あとは帰るだけだ。そう思っていたら、担任から「あー、谷口はあとで職員室。俺んとこ寄ってってな」の言葉。きっと進路のことだろうな。直感で、そう思った。
「――モデルの仕事はどうだ?」
「どうって……昔と変わらず、楽しくやってますけど。」
「まぁ、そうだろうな。お前、最近やたら色んな所に出てるもんな。その内、ドラマや映画の話も来るんじゃないかって斉藤先生が……おっと、世間話がしたくて呼んだ訳じゃなかったな。」
先生が棚の中のクリアファイルから取り出したのは、個人成績表。現在、自分が学年の中でどの位置に居るのか、志望する学校や企業なんかが書かれてあるのだった。
他のみんなの紙には、きっと大学や専門学校、働きたい所の名前が書かれてあるんだろう。でも、俺の欄は白紙。学生の肩書きが取れたら、このままモデル事務所一本でやっていくと決めていたからだ。
「谷口は、学校には行かずに、モデルに専念するんだったな?」
「はい、そのつもりですけど。」
「勿体ないと思うんだがなぁ……学業と芸能活動を両立してるタレントも、沢山居るだろ?」
「でも、仮に何処かの大学に入るとしたら、授業はしっかり受けたいんです。今みたいに休ませてもらってたら、きっと何も身に付かないと思うし。
助けてくれる友達はできるだろうけど、それに甘えたくないっていうか……俺、海外に仕事しに行く時に、何にも気にせず行けたら良いなって、ずっと思ってたんで。」
何かを言い訳にしたくないなら、望むもの一本に絞ってしまえば良い。単純な発想かもしれないけど、好きなことをとことんやってみたいというこの気持ちはきっと、志望した学校に入って興味のあることを勉強したいという人達にも通じるものがある筈だ。先生達はきっと、そういう生徒を止める気にはなれないに違いない。俺の予感は的中して、担任は小さく息をついた後、納得したように、軽く二回頷いたのだった。
「……そうか。まぁ、谷口がしっかりした意思を持って仕事してるっていうのは、他の先生方も分かってらっしゃるからな。俺も応援するよ。」
代わりと言ってはなんだが、クラスメイトの勉強をたまには見てやってくれないか。そう口にした先生は、“これからも頑張れよ”と力強いエールをくれたのだった。
礼をして、職員室を出る。よし、と気合いが入ったのも束の間だった。
――目の前には爽やかな、アクアブルーとホワイトのグラデーションのTシャツ。学校指定のハーフパンツを合わせたその後ろ姿が、くるりとこちらを向いた。
「……渋沢……」
「お、谷口じゃん。お前も進路関係?」
「あぁ、うん。そんなとこ。」
変に冷たい汗が、背中を伝う。“逃げたい”と思うのに、何故か動けない。そんな俺の心を読んだのか、渋沢は小さく口角を上げた。
「――モデルの仕事はどうだ?」
「どうって……昔と変わらず、楽しくやってますけど。」
「まぁ、そうだろうな。お前、最近やたら色んな所に出てるもんな。その内、ドラマや映画の話も来るんじゃないかって斉藤先生が……おっと、世間話がしたくて呼んだ訳じゃなかったな。」
先生が棚の中のクリアファイルから取り出したのは、個人成績表。現在、自分が学年の中でどの位置に居るのか、志望する学校や企業なんかが書かれてあるのだった。
他のみんなの紙には、きっと大学や専門学校、働きたい所の名前が書かれてあるんだろう。でも、俺の欄は白紙。学生の肩書きが取れたら、このままモデル事務所一本でやっていくと決めていたからだ。
「谷口は、学校には行かずに、モデルに専念するんだったな?」
「はい、そのつもりですけど。」
「勿体ないと思うんだがなぁ……学業と芸能活動を両立してるタレントも、沢山居るだろ?」
「でも、仮に何処かの大学に入るとしたら、授業はしっかり受けたいんです。今みたいに休ませてもらってたら、きっと何も身に付かないと思うし。
助けてくれる友達はできるだろうけど、それに甘えたくないっていうか……俺、海外に仕事しに行く時に、何にも気にせず行けたら良いなって、ずっと思ってたんで。」
何かを言い訳にしたくないなら、望むもの一本に絞ってしまえば良い。単純な発想かもしれないけど、好きなことをとことんやってみたいというこの気持ちはきっと、志望した学校に入って興味のあることを勉強したいという人達にも通じるものがある筈だ。先生達はきっと、そういう生徒を止める気にはなれないに違いない。俺の予感は的中して、担任は小さく息をついた後、納得したように、軽く二回頷いたのだった。
「……そうか。まぁ、谷口がしっかりした意思を持って仕事してるっていうのは、他の先生方も分かってらっしゃるからな。俺も応援するよ。」
代わりと言ってはなんだが、クラスメイトの勉強をたまには見てやってくれないか。そう口にした先生は、“これからも頑張れよ”と力強いエールをくれたのだった。
礼をして、職員室を出る。よし、と気合いが入ったのも束の間だった。
――目の前には爽やかな、アクアブルーとホワイトのグラデーションのTシャツ。学校指定のハーフパンツを合わせたその後ろ姿が、くるりとこちらを向いた。
「……渋沢……」
「お、谷口じゃん。お前も進路関係?」
「あぁ、うん。そんなとこ。」
変に冷たい汗が、背中を伝う。“逃げたい”と思うのに、何故か動けない。そんな俺の心を読んだのか、渋沢は小さく口角を上げた。