落日


「卒業おめでとう」


驚いている私などおかまいなしに、聡は一歩、また一歩とこちらに歩み寄りながら言う。


「仕事じゃないの?」

「うん、仕事だった。あがってからソッコー着たから、この格好」


自嘲気味に笑いながら、聡はジャケットの下から覗く制服を私にちらりと見せた。


「じゃ、依子。あとでね」

「えー、ちょっと依子! 誰その人ー」

「もういいから、理恵子! 帰るよ」


聡のことをしつこく訊く理恵子を、香織は無理やり連れて行く。

私は二人の姿を完全に見えなくなるまで見送ったあと、聡の方に向き直った。


「来ないかと思っていたのに。……びっくりした」


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