落日


おずおずと助手席に乗った私は、座り心地のいいシートに身を委ねながらもどこか落ち着かなかった。


「とりあえず家に帰っていい? 俺、こんな格好だし」

「あ……、そうね。着替えないとね」


親が金持ちで、そのせいであんな高級マンションに住んでいる。

車もその流れなんだ。


だけど、普通の家庭で育ってきた私には、遠く感じる。

聡のことをひとつ知るたびに、彼は「たいしたことない」というような様子で笑うけれど、私は引け目さえ感じてしまう。


誠司も聡と同じような家庭環境だけど……。

幼い頃からずっと一緒だったから、私は月島グループの後継者と付き合っていることに居心地の悪さを感じたことはなかった。


< 109 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop