落日
添田さんに付いて社長室を出るとき、私は主のいない鳥篭の存在が妙に気に掛かり、もう一度見た。
「気になる? その鳥篭」
私の一瞬の視線に気づいた社長が声を掛ける。
それまで座っていた椅子から立ち上がり、社長は鳥篭を愛しそうに撫でながら私に言った。
「今ね、ちょっと遊びに行かせているのよ。私のもとに帰って来るまで、しばらくかかりそうね」
「……遊びに?」
「えぇ、遊びに。とても楽しいんでしょうね。帰っておいでと言っても、なかなか帰って来ない」
「……あの……?」
たかが、鳥じゃない……――。
まるで愛しい人間に言うような言葉。