落日
「さ、もう行きなさい。覚えてもらうことはたくさんあるわ」
鳥篭を眺めていた社長は我に返り、にこりと微笑んだ。
あの人にも、あんな一面があったんだ。
遊びに出掛けたという鳥の帰りを待ち望む。
愛しそうに、空っぽになった鳥篭を撫でるしなやかな手。
どんな鳥なんだろう。
彼女は、その鳥にどれだけの愛情を注いでいるんだろう。
秘書としての勤務初日は、精神的に疲れた。
社長が言ったとおり、覚えることは山ほどあった。
どっぷりと疲れた身体を引きずるようにして会社を出ると、そこに聡の姿があった。