落日
「……燕は、もう二度と姉さんの元には帰って来ないよ」
「え……?」
「無理やり連れ戻すことも出来ないくらい、燕は遠い国に行ったから」
いつも穏やかな笑顔が印象的な副社長が、初めて見せた厳しい表情。
そして、遠い国に旅立ったという言葉で、社長は何かを悟ったのか、わっとその場に泣き崩れた。
私だけが、その意味を理解できなかった。
社長室の外まで副社長を見送ったとき、彼は私に言った。
「依子ちゃんを幸せにしてくれるのは、誠司くんなんだよ。燕のことは忘れるんだ」
私は、燕の消息を訊くことはしなかった。
教えてもらったところで、どうかなるわけじゃない。
聡は、私を裏切った。それが、真実なのだから……――。