落日
誠司が書き直した退職願は正式に受理され、月島グループの次期後継者は副社長に決まった。
社長はいつも通り冷静沈着に仕事をこなしながらも、時折、寂しげな瞳で窓の外を眺めている。
「――社長。お茶をお持ちしました」
凄腕の女社長が見せる寂しげな瞳は、消息を絶った燕を探している。
「……聡はね、昔、月島が委託していた清掃業者で働いていたのよ」
「……えっ?」
お茶を出し、社長室を出ようとした私に、社長は力なく微笑みながら話し始めた。
「誠司と同じ大学に通っていたんだけど、御両親の突然の事故死で、学費を払うためにたくさんのバイトを掛け持ちしていた」
聡の口からは聞くことのできなかった、彼の本当の姿……。