落日


「不憫に思えてね……。私が、学費から住むところまで全てを彼に与えたの」

「…………」

「次第に情までもが移ってしまって、私は聡にお金を与えることで繋ぎとめていたのよ。聡がどんな気持ちで、お金を受け取っていたのかは分からない。ただ……」


しばらく間を置いて、社長は続けた。


「聡が私の元から去った日……、副社長を通じて私にお金を渡してきたの。これまで私が聡に与えて来たお金よ。あの子、一銭たりとも手を付けていなかったのよ」


半ば呆れたように、社長は笑う。


「結局、お金なんて興味なかったのかもしれないわね。私を哀れんで、同情していただけだったのかもね」


真意も分からないまま、聡は姿を消した。

社長と副社長も聡の居場所を知らないし、突き止めることもしなかった。


閉じ込めていた籠のなかの鳥を自由にさせた意味を、私が知るのはずいぶんと後になってからだった。


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