落日


聡が教えてくれた、ヴェッキオ宮での挙式。

結婚について、たくさん話した。

あの頃の私は、すごく幸せで、聡と寄り添う未来を心待ちにしていた。

それなのに……――。


「ヴェッキオ宮かぁ。でも何だか面倒だな……」


情報誌から目を外し、ネットでヴェッキオ宮のことを調べ始めた誠司が苦笑する。


「住民票に戸籍謄本……かぁ……」


煩わしそうに呟きながら、パソコンの画面に見入っている誠司の横顔。

それを間近で見て、我に返る。


相手は、誠司なのに……。

聡のことを思い出すなんて、最低だ……――。


< 189 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop