落日
聡が教えてくれた、ヴェッキオ宮での挙式。
結婚について、たくさん話した。
あの頃の私は、すごく幸せで、聡と寄り添う未来を心待ちにしていた。
それなのに……――。
「ヴェッキオ宮かぁ。でも何だか面倒だな……」
情報誌から目を外し、ネットでヴェッキオ宮のことを調べ始めた誠司が苦笑する。
「住民票に戸籍謄本……かぁ……」
煩わしそうに呟きながら、パソコンの画面に見入っている誠司の横顔。
それを間近で見て、我に返る。
相手は、誠司なのに……。
聡のことを思い出すなんて、最低だ……――。