落日
キレイに洗い上げた仔猫の身体を、時間をかけて乾かしていく。
ここまでは良かったのだが、ご飯をあげると言っておきながら、猫を飼ったこともないこの部屋にはキャットフードさえもなかった。
「……とりあえず、にぼしでいいかな……」
料理の出汁用に買っていたにぼしを適当に掴み、それを仔猫に差し出した。
仔猫はそれを一度匂ってから、自分の身体が受け入れる食べ物であると判断したのか、にぼしを貪るように食べ始めた。
仔猫がにぼしを食べているあいだ、私はふらりとベランダに出た。
階下に広がる見慣れた景色。
この場所から、この景色を眺めるのはあとどれくらいなのだろう。
ひんやりとした風が、私の頬をくすぐる。
仔猫の様子が気になり、部屋の方を振り返ると、仔猫は与えたにぼしをすべて平らげ、顔を洗っていた。