落日
ベランダに出てぼんやりと都会の町並みを眺めていると、自然と私の脳裏にはフィレンツェの町並みが浮かび上がる。
聡――。
同じ町に住んでいると言っていた。
でも、聡本人はもちろん、私は彼に繋がる些細なものにでさえも、今のところ出会っていない。
私が聡について知っていることは、この町に住んでいること、年齢、それだけだ。
普段なにをしているのか、なんて、込み入ったことまでは知らない。
フィレンツェでの旅を終えて帰国してから、私の頭のなかを少しずつ聡が占領し始めている。
誠司の淹れてくれたコーヒーが苦く感じ始めたのも、そのせいなんじゃないかと思う。