落日
「結婚が正式に決まる前に言ってくれて良かったよ。ありがとう」
誠実な私の恋人は、心の芯まで優しすぎる。
誰かを恨むことも、責任転嫁することもしない。
突然の別れを告げた相手に対して、ありがとう、とさえも言うことができる。
こんなに優しい人を、私は傷つけてしまった。
いっそのこと、非難され、罵られた方がまだましだ。
「おいおい、泣くなって」
「ごめん……っ……」
本当は、誠司がいないあいだに、聡と過ごしたことまで打ち明けるつもりでいた。
けれど、これ以上のことを言ってしまったら、さらに誠司を傷つけてしまうような気がした。
――そんなことを考える私は、きっと、嘘つきな偽善者だ。