グラウンド【短】
_.....
「大塚っ!」
少し遠くから、救急箱を持った早瀬が走ってくる。
「大塚、足の手当てすんぞ。」
「えっ・・・?!」
そして無理矢理あたしを更衣室へ連れて行った。
女子の更衣室。
もちろん誰も居ないから、静かだ。
「・・・ったくお前、1位で予選通過したんやから怪我の手当てぐらい早くしろよ。次の試合出れんくなるぞ。」
「・・・うん。ありがと」
転倒したあたしだけど、すぐに走り出したし、日頃の練習のかいあって1位だった。
・・・たぶん、早瀬のあの言葉のおかげが大半だけど。
「大塚の根性すげぇなぁ」
ははっと早瀬が笑う。
・・・違うよ。
「違うよ。・・・早瀬が言ってくれたけん、走れたんよ。」
真剣に言ったあたしに、早瀬の動きが止まった。
「・・・お前さ、誰に負けたくなかった?」
早瀬の顔を見る。
早瀬もまた、真剣だった。
「第2レーンの子だよ。・・・早瀬が好きな子。」
心臓の音が早瀬に聞こえるんじゃないかってぐらい、大きい気がする。
・・・はぁ、と早瀬のため息が聞こえた。
「・・・俺はもう、あの子のこと好きやないよ。」
―え?
「・・・今年は、あの子のことやなくて、・・・大塚だけ見とった。」