青の予感
青の予感
「あっ。すいません」
コンビニの扉で、入るのと出て行くので、当りそうになったお兄さん。


「カバーはつけますか?」
丁寧に聞いてきた本屋さん。


 今日の彼女の一目ボレは2人。
始まるわけでもなく、終わるわけでもない。
恋と呼べるものかどうかもわからない。
話しても話さなくても、ただ、男性を見て、心がはっとする瞬間を彼女は大切にしていた。


彼氏いない暦もうすぐ5年。
毎日カウントする一目ボレ君が、
恋愛に発展することもなく、
5年・・・。

そのうち、ひょっとしてひょっとするかも・・・と、勝手な想像をすることを楽しんでいた彼女は、信号待ちですれ違うときに目が合っただけのカッコイイ人に一瞬で恋をし、一瞬で失恋まで想像できるほどになっていた。


それはそれで楽しいけれど、
なにかどこかで寂しさのある毎日―。




そんな日々にある日、スパイスが調合された。
仕事帰り、いつものガソリンスタンドで・・・




「一目ボレしたんです」


彼女が、エンジンをかけ、スモールライトをつけたとき、窓の外から聞こえる、いつもの

「満タンOKです」
ではなく、違う言葉がかけられたことに、一瞬気づかなかった。
給油伝票をまだ手から離さない彼が、
「よかったら、メアド交換してもらえませんか?」と続けたとき、
やっとさっきの言葉が彼女の耳に入っていった。

「えぇっ??」

驚きと恥ずかしさが混じった声だった。
自分の鼻がテカッて、リップもガサガサなことがなんだか急に恥ずかしく、うつむいてしまった。

「よかったら、メールくださいね」

アルバイトの彼がメアドを伝票に走り書きをして走り去った。

気づけば後ろには給油待ちの車が入ってきている。
慌ててギアをドライブにいれる。

「ありがとうございました」
声が響き、バックミラーには頭を下げる彼の姿が映っている。

 
アクセルを踏むごとに心臓の打つテンポがあがっていくような気がしていた。


赤信号にかかり、ハンドルにと一緒に握りしめたままだった伝票をひろげ、
「ふっ」と微笑んだ。



彼って、私みたいな人かも―。



信号は青。彼女はゆっくりとアクセルを踏んだ。


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