短編《Who don't yet look to you?》
 ピエロはポケットから黄色の風船を取り出すと、勢い良く空気を入れて風船を膨らませる。

 キュキュ、と風船の口を閉じた後は、器用にそれを割る事なく捩ったり折り曲げたりしている。

 やっぱり魔法みたい。目の前で行われる鮮やかな手つきに溜め息がもれる。

 出来上がった形は可愛いプードル。

 腰の高さで添えられた左手は指先までピンと伸ばされ、右手でそれを差し出す格好はまるで王子様がお姫様にダンスを申し込んでるかの様。

 ピエロのメイクをしているから表情を読み取れないけど、その紳士的な振る舞いに心臓が跳ねる。

 ドキドキしながら受け取り、ありがとう、とお礼を言おうとした時、手の中の風船が一気に弾けてしまった。

「あっ!?」

「!!」

 手の中にあったプードルは黄色のゴムへと無残に形を変え、するりと指の間から落ちていく。

 言葉を失ったあたしにピエロは、大丈夫、と言うかの様にポケットに手を入れる。

 だけど、どうやらさっきの風船が最後のひとつだったみたい。




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