ロ包 ロ孝 3
 領主である六角義郷に宛てた訴状を老中へ渡す事が出来た為、宗助達は意気揚々と帰途に付いていた。



「頭の言う通り、首尾良く事が運びましたね」

「しかし欣治(キンジ)これは気休めに過ぎん。御腰(ミコシ)を上げて頂けるという証を頂戴した訳では無いのだからな」

「ではどうしてわざわざ」

「それが『絵に描いた餅』のような物だとしても、書状は現に御屋形様の所に有る。大義名分の拠り所として、転ばぬ先の杖を着いたという訳じゃ」



 里へと続く道を半ばで折れ、川伝いに下って行く。すっかり色付いた茂みを暫く掻き分けた後、彼らの隠れ家へ通ずる小路が漸く現れた。



「この季節になると葉も落ちて、見通しが利くようになってしまう。よもや後を付けられてはいまいな」

「大丈夫です。しかし急ぎましょう」



 辺りを窺い、地面に臥せて物音を探るとそう言った欣治は、宗助に付き従った。

 獣道と見まごうばかりのその道を進むと、切り立った崖に申し訳程度の足場が作られている。



「欣治。足元に気を付けろ」

「解りました。頭もお気を付けて」



 2人は注意深くその足場を進む。賊の侵入が有った際にはそれごと谷底に転げ落としてしまう寸法だ。


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