ロ包 ロ孝 3
「ここならあやつ等(ラ)にも見付からないだろう」



 肩で息をしながら、喜八は綾乃を庇うようにして身を潜めた。



「なんで? どうしてあたい達が逃げ隠れしなければならないの?」



 綾乃は友達だと思っていた与平太、その父から放たれた飛苦無(トビクナイ※1)で二の腕に浅傷(アサデ)を負わされていた。



「与平太のトト様だけじゃ無い。長屋のみんなもきっかり井戸から向こうはあたいらに苦無(クナイ※2)を向けてきたんだ」

「せん無き事。向こうは高峰忍びでは無いからな」

「でも何故!」



 綾乃はまだ小さい。高峰家が甲賀から独立した事など解ろう筈も無い。



「あやつ等の御屋形様と我等の御屋形様は既に袂(タモト)を分かたれたも同然。それに我等の事を『足抜け』したのだと勘違いしておる」

「それって『抜け忍』だと思われてるって事?」

「そうだ」



  スサササササッ



「シッ!」



 喜八はそう鋭く発すると地獄耳の【朱雀(スザク)】を使った。



  キィィィィィィ……



 丁度良い音色に落ち着いた【朱雀】の波動は、外で話している輩の小声を捉えた。



『……かにこの……で姿を見失のうた。隠れているとすればここじゃろう』

『しかし喜八も綾乃もまだ小童(コワッパ)ではないか。我等は伊賀忍では無いのだぞ』

『お屋形様や大首領(甲賀忍者の長)の命に叛く訳には参らん。儂とて身を切られる思いだとも』

『しかし喜八は頭領(一族の長)高峰の嫡男(チャクナン)ぞ』

『高峰は最早甲賀に非(アラ)ずと大首領の仰せじゃ』


 喜八は考えを巡らせていた。


※1 飛苦無(トビクナイ)
甲賀忍者の手裏剣

※2 苦無(クナイ)
同じく甲賀忍者の武器。飛苦無よりも長い、接近戦用の武器


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