恋のありかた

「よかった、傷がついてはいるんだけど、異常は見られないって…よかった…」

翌朝、病院で検査を受けた。結果は母の安心して涙を浮かべた顔でわかった。

「うん。ごめんね」

「雪南は何もしてないでしょうが……っ」

母は抱きしめてくれて、何度も頭を撫でてくれた。その、温かさがどうしようもなく嬉しかったのに。
私は泣けなかった。そっと体を突き放して、立ち上がる。

「学校、行くね。薬、もらっといて」

「休んだほうがいいよ」

「いいの、平気。いってきます」

「雪南……!」

 母の声を背に、病院を飛び出した。居たくなかった。とぎれとぎれの記憶が生々しく蘇る。
思い出したくもない痛みに声に傷に心が折れてしまいそうになる。


「セツ。」


病院を飛び出した先に、馴染みの顔。昨日の不在着信のほとんどは、三月だった。

うまく眼を合わせられない。

「おはよ」

「おはよじゃないだろ……ま、よかった。顔見れて。学校行っても平気なの?」


唯の言葉が脳裏に響く。

「うん。」

嫌になるほど

「……ほんとに大丈夫なのか?家にいろよ」

夢にまで出てきた。

「へーきへーき。」

朝起きた瞬間から

「なんでだよ!おまえ何されたかわかってんの!?
 何で……何でそんな笑えんだよ!」

心はきまっていた。

「……もーいいよ」

 三月が近づいてきて、私を抱きしめようとするのを拒否した。
三月の顔が陰って、一歩下がる。

「ごめん、つい。」

「……た」

「何?」

 
 泣きそうになるほど、三月は優しくて、泣きそうになるほど、三月は私を愛してくれていた。

 キスされた時

 幸せだと、思った。

 
 この醜い感情が、純粋に三月を愛せる感情に変わりそうな気がしていた。


 気付くのも遅くて

 私は、


「だから、飽きたって」




 人一倍、臆病で。



「セツ、何言ってるか全くわかんねえ」



 愛し方が


「だから、飽きたら離れてくれるんでしょ?離れてよ、うざい」


 分からなくて。



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