【短編】終電時刻
いつもの駅へと着くと、男が思っていた通り、駅の光は消え失せ、朝の慌ただしい駅の顔とは別人の、寂しい暗い顔に変わっていた。
やっぱり、今日も終電には間に合うわけがないよな。
暗く、静まり返っている駅を見て、男は苦笑しながらも深いため息をついた。
今日はいつもより早く終わったんだがな…。
まぁ間に合わないことは分かってたんだけど。
男は駅を見回したあと、自分の足を見た。
使い古され、汚れが目立つ茶色い革靴は、今では黒に近い。
…………なんで分かってたのに駅に来たんだろう…………?
気付いたら足が駅へと向かっていた。
例え残業がいつもより早くても、決して終電に間に合った試しはなかった。
だからいつもはそのままタクシーをなんとかつかまえて帰っていた。
そっちの方が体にも精神的にも楽だったからだ。
まぁお財布的には悪いが。
しかしだ。
今日に限ってなぜ俺は駅へと向かったんだろう……………?