恋舞曲~雪の真昼に見る夢は…~
“杏奈”っていうのは、あたしを産んでくれたヒトの名前。

だけど、あたしはそのヒトのことを“母さん”と呼んだことは一度もない。

呼ぶときはいつだって“杏奈さん”って呼んでいる。


「あの……“天国で”って? 失礼ですが間宮先生の奥様はお亡くなりになられたんですか?」

驚いたように江波さんが言った。


「おや、まだ話していなかったかな?」

「はい、存じませんでした…」

「そうか。ちょうどいい機会でもあるし江波さんにも話しておくか」

椅子に座る父。あたしも続いて座った。

そして父は杏奈さんのことを静かに語り始めた、少し辛そうな顔をして。

きっと昔のことを思い出してるんだ―――



「そもそも私は杏奈の主治医だった…」

「奥様は先生の患者さんだったんですか?」

「あぁ。彼女は生まれつき心臓が悪くて、まるで“風の中のロウソクの火”のような女性だった…」
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