恋舞曲~雪の真昼に見る夢は…~
「医者の私がこんなことを言うのもなんだが、やはり自分の体のことは自分が一番よく分かるのか、杏奈は自分の命の火がそう長くはもたないことを悟っていたんだろう。自分の命の火が消える前に新しいロウソク……子どもにその火を移したかったんだな……」

「命の火のリレーですね…?」


「命の火のリレー……」


あたしは思わず江波さんの言った言葉を繰り返していた。

「結局、私も、杏奈のご両親も、彼女のやりたいようにやらせてあげることにしたよ…」

「どうしてですか? たとえ残り少ない命だったとしても、わずかでも延命させるためには、出産は思い留まらせるべきだったんじゃないですか?」

「杏奈の幸せが、私にとっても、ご両親にとっても幸せだったからだよ」

「奥様の幸せが、先生にとっても、ご両親にとっても幸せ…」

父は黙って大きく2、3度うなづいた。

「それから十月十日(とつきとうか)が経ち、12月25日の雪の降る夜、産まれてくる子どもに……“毬”に命の火をバトンタッチして杏奈は天国に旅立って行ったよ……19歳の誕生日の1週間前のことだった……」

「そんなことが……あったんですね……」


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