恋舞曲~雪の真昼に見る夢は…~
江波さんの声が震えていた。

「毬さん……」

彼女がやさしい声であたしを呼んだ。

「はい……」

彼女の顔を見ると、一筋の涙が両方の頬を伝っていた。


「あなたが18歳の誕生日に結婚するっていう夢を持ったのは、あなたに命の火をバトンタッチして亡くなられたお母様の人生を引き継ぐためだったのね……?」


「はい…そうです……」

あたしは静かにそう言って微笑んで見せた。

「知らなかった…わたし、そんなこととは全然知らなかった……」

知らなくて当然だ。秘密だったんだから。

知り合いはもちろん、あたしの知らないヒトまでが「あたしは18歳で結婚するんだ」って言ったのを知っている。

だけど、そんなあたしのことをみんなは単に“結婚願望の強いオンナ”としか、たぶん見ていなかったんじゃないかと思う。

今まで父以外には秘密にしていたことだけど、あたしが18の結婚にこだわった理由は江波さんが言ったとおり“18であたしを産んで死んだ母親の人生を引き継ぐため”だ。


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