恋舞曲~雪の真昼に見る夢は…~
「………」
ひとりシーンと静まりかえった更衣室前の廊下に取り残されて、しばらくは呆然と立ち尽くしていたけど……。
そのうち、今になってジワジワと…、だけど押えきれないほど込み上げてくる激しい怒りに身を振るわせながら、病院の建物の外まで出ていったあたしは、学生時代に鍛えた目にも止まらぬ早打ちで…、
『気がついたら連絡して。待ってるから』
…と勤さんにメールを送った。
彼は外科医だから、仕事中は手が離せないだろうと思ってメールにしたんだけど、家に帰ろうとしていたあたしのケータイは、意外にもそれから10分もしないうちに彼から電話を着信した。
「もしもし、いま大丈夫なの?」
「うん。それより何の用事かな?」
あたしはさっきまでの江波さんとのやりとりを話して聞かせた。
「あぁ、それは多分、僕が結婚したら、今までいつもいっしょの幼なじみだったのに、もう自分と違う世界の存在になってしまうような気がして急に淋しくなって、それで、そんなイジワルなウソをついたんだと思うよ」
てっきり“江波さんとの浮気がバレた!”って動揺するかと思ったのに、電話から聞こえる彼の声はいつもとかわらず穏やかだった。