恋舞曲~雪の真昼に見る夢は…~
彼は返事をしなかった。…というより、多分なんて答えたらいいのか分からなかったんだと思う。

服装を整えたあたしは軽くフラつきながらも「じゃあ、帰るね」と努めて笑顔を見せながらドアのほうへと向かった。

…と、そのとき―――



“コン、コン…”



誰かが部屋をノックした。

まだ部屋に運んできていないルームサービスでもあったんだろうと思ったあたしは、なんの気なしにドアを開けた。

すると、そこには走ってきたのか肩で息をする誠志郎さんと知らない女のヒトがいた。

いや、よく見ると知ってるヒトだ。病院にいるときは白衣を着て、髪をアップにしていたから、一瞬誰だか分からなかったけど、この女のヒトは江波園子さんだ。

「えっ…二人ともどうしたの!?」

「わたし、ちゃんと話すから家で待ってて、って言ったじゃない」

「そ、園子っ」

彼女を見て、ひどく驚いたような勤さん。…ってことは彼が彼女を呼んだんじゃない、ってことになる。

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