恋舞曲~雪の真昼に見る夢は…~
抱き合う二人は見ていて痛々しかった。あたしを利用しようとしていたヒトたちなのに、同情の気持ちさえわいてしまう。
「あたし……勤さんと江波さんの赤ちゃん……産んであげてもいいよ……」
あたしの発言によほど驚いたのか、みんなが一斉に、あたしのほうを見た。
「あたし、なんの取り柄もない人間だけど、心臓ドックの検査にも今のところ引っかかってないし……多分、赤ちゃんは産めると思うから……だから来年の6月…ジューン・ブライドになって、しばらくお医者さんの奥さんとしていい夢見させてもらったら、あたし…それでもう十分だよ……」
「毬ちゃん、なにを言い出すんだっ」
「その後は…勤さんと江波さんに、あたしの赤ちゃんを託すよ。お二人になら安心して、託せるし」
「あ…ありがとう、毬さん! 愛情をいっぱい注いで大事に大事に育てていくから、安心して託してくれ!」
勤さんはひどく喜んでいるみたいだったけど、江波さんのほうは黙っていた。
「あたし、なんにもない人間だけど、あたしなんかでもヒトの役に立てるなら、それはあたしにとっても嬉しいことだから」