恋舞曲~雪の真昼に見る夢は…~
「これは他のヒトからもらった指輪で……それに、その結婚も、もうダメになっちゃった……」
「えっ、なんだよ。ワシはてっきり二人が結婚したと…」
「あたしもだよ」
さっきまでの嬉しそうな顔から一転、夫妻はガッカリしたように表情を曇らせた。
「………」
信号が赤になりクルマが止まると、車内には重苦しい沈黙の時間が流れた。
「今回のことでよく分かったよ……あたしは結婚なんかしちゃいけないオンナなんだ……ひとり静かに剛のことを思いながら一生ひとりでいるのが一番なんだ……」
心底そう思う。
だけどマスターは、あたしのほうに振り向いて「それは違うぞ」と即否定した。
「どーいういきさつでソノ結婚話がダメになったのかワシは知らん。だが、本当に剛のことを思うなら、毬ちゃんは誠志郎と結婚するべきだった。いや、そうしなくちゃいけねぇとワシは思う」
「でも、それじゃあ、あたしのために死んだ剛に悪いよ……」
「毬ちゃんのために死んだんじゃねぇよ」