恋舞曲~雪の真昼に見る夢は…~
「だって」
「あのとき本当は死ぬ気なんてなかったはず。毬ちゃんを守ってカッコイイところを見せようとしただけだと思うし、まさか本当に死ぬとは思っていなかったはずだ」
「それなら、どうしてあのときあんな無茶したのっ…」
いくらマスター夫妻が剛の親とはいえ、あのとき剛がどんな気持ちだったのかなんて知るはずもないことは、よく分かっていた。
でも、それでも訊きたかったし、夫妻ならたとえ正解じゃなくても、なにかしらの答えを与えてくれるんじゃないかと、心のどこかで期待しているあたしがいた。
「多分、剛はああするしかなかったんだと思う。毬ちゃんを自分のほうに振り向かせるためには、ああするよりほかなかったんだと思う」
「じゃあ、あのときすでに、剛はあたしの気持ちに気づいてんだ……」
「毬ちゃんが誰を好きかくらい、サッカー部の連中はもちろん、ワシらだってとっくの昔にお見通しだ。毬ちゃんって意外と単純だからな」
信号が青になり、クルマを発進させるマスター。
「好きだったんだろ? 誠志郎のことが」
前を向いたまま、ルームミラーの中のあたしに向かってマスターが訊いた。