恋舞曲~雪の真昼に見る夢は…~
「あ、あぁ……」
一瞬、彼の手が止まったような気がした。
「あのときね、あたし、気合入れてトンカツとかカツ丼とかカツカレー作ったんだけど、でも、ハリキリすぎていっぱい作りすぎちゃったもんから、最初は“美味しい”って言ってくれてたみんなも途中から全然食べてくれなくなっちゃって……お皿や鍋にいっぱい残ってる料理を見てたら、なんかあたし…涙が出てきちゃって……」
「そーだな……あのとき毬ちゃんが急に泣き出すもんだから、みんなオロオロしたっけな」
「…でも、そのとき誠志郎さんは食べてくれたんだよね。残ってる料理を全部ひとりで食べてくれたんだよね」
「あのときのトンカツは美味かったよ」
「あたしには…いやいやガマンして食べてくれてるみたいには見えなかったから……だから、すごく嬉しくて、このヒトのために、またお料理作ってあげたいなって思ったし……そのときだよ、あたしが…誠志郎さんのこと好きになっちゃったのは……」
「同じだ……」
「え?」
「俺が…毬ちゃんのこと好きになったのも…そのときだったんだ……」
「ホントに?」と思わず彼のほうを見そうになって…、だけど傷口を見るのが怖くて顔をまた窓の外に向けるあたし。