恋舞曲~雪の真昼に見る夢は…~
「フッ、なんだ、そんなことか」
誠志郎ってヒトの笑顔は余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)のソレだったけど、あたしにしてみれば、ちっとも笑いごとじゃない。
「いわゆるひとつの“ジンクス”ってやつさ」
「ジンクス……ですか?」
「縁起をかつぐってゆーか、勝負の世界で生きてる人間はジンクスを大事にしてるんだ。プロスポーツの選手でも勝つまでヒゲを剃らないヒトとか、同じパンツをはき続けてるヒトとかいるだろ?」
「あぁ…なんか聞いたこと、あります……ヒゲを剃っちゃうと“ツキ”に見放されるとか、って……」
「そうそう。要するに自己暗示なんだよ。“三つ編みのコが見に来た試合は負けない”って思い込んでるから、キミの姿を見た瞬間、今日は負けない、っていう気持ちの余裕が生まれて、余計なチカラが抜けて、そんでリラックスして試合にのぞめるってワケさ」
「へぇ……」
このヒトがあたしのことを“勝利の女神”って言い出したって聞いてたから、ぶっちゃけちょっとヘンなヒトなのかと思ってたんだけど、ちゃんとした根拠があったんだ。
…ってか、自己暗示を利用してチームを勝利に導くなんて、このヒト、体育会系のクセして、実はすっごくアタマのいいヒトかも?