恋舞曲~雪の真昼に見る夢は…~
「でも、小さい頃から、本来なら母親がやるべき仕事をずっとこなしきたなんて、本当に大変だったでしょう?」
「いえ、あたしなんか……。それより、父の仕事を見ているから分かるんですけど、お医者さんのお仕事のほうがゼッタイ大変だと思いますよ」
「そうですね。まぁ、病気ってヤツは人間の都合なんか全然考えてはくれませんから、今日みたいに本来の出勤日じゃなかったり、あるいは真夜中とかでも突然、病院に呼び出されることもありますし、本当に大変で毎日気が抜けない仕事ですよ」
「ですよね……」
「でもね、大変なだけにやりがいはありますよ」
安達さんはそう言うと、またあたしが作った玉子焼きを食べてくれた。3コ目だ。よっぽど気に入ってくれたんだろう。
「美味しい」
そう言って、微笑むところなんて、のどかな感じで心がなごむ。
今この瞬間だけの彼を見ていたら、このヒトが血まみれの手で切った貼ったの外科手術をしている姿なんて想像もできない。
でも手術のときはマスクをして、ピッチピチのゴムみたいな手袋をして「メス!」とか「汗!」とか言いながらテキパキと処置をしてるんだと思う。