果物ナイフが折れればいい
それはそうだけど、もしも、そこまでしたこの僕っていうヤツが、ある日粉々に砕かれたらどうしろっていうんだ。どうなれっていうんだ。

僕にこの僕を見せつける模倣犯はそこまで責任をもってはくれない。一緒に悲嘆してくれるにしても、コイツは模倣犯なんだから、 僕以上の感覚で心臓の萎縮も、横隔膜の痙攣も感じるはずがない。

だったら事前の策を弄さないといけないじゃないか。

立ち上がって台所へ行き、食器棚を開ける。ししゃもフライのような色をした十五センチ程度の棒を取る。それは中間から二つに分かれて、片方には薄くて銀色の、羽のようなものが仕込まれていた。知ってる? 果物ナイフって言うのさ。

果物ナイフの銀は、細くて小さいのだけれど、鏡のように僕の模倣犯になり得た。

もちろん、そこに映り込む僕もまた笑っている。

唇の端を吊り上げて、歯を少し見せている。そのくせ、眉は微妙にしなだれていて、目元がやけに細くなっている。素敵なくらい滑稽な、さっきとは違う、だけど笑顔だった。

その笑顔の映る果物ナイフを手に、ヤツがいる鏡を手にする。僕は相変わらずそこにいて、思わずこんにちはを言ってしまった。
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