果物ナイフが折れればいい
果物ナイフを両手で握り、テーブルに乗せた鏡へ切っ先を宛がう。

僕が僕の僕によって串刺しにされる瞬間、強く思った。


果物ナイフが折れればいい。

そうしたらそれは、今手に握っている僕より、そこにいる僕がより優れているっていうことだから。

僕は、掌に汗が浮かぶほどの時間待ち、そして力を込めた。

僕によって僕に突きつけられた僕、折れなかった。

折れなかった。折れなかったんだ。

は、は、と笑うしかなかった。

ご覧、さあご覧。あれだけ素敵だった僕の鼻面に、果物ナイフが見事に突き立っているよ。

さっきの果物ナイフの僕が、そこに移住しているよ。

どうしてくれるんだ、と、僕はそいつを詰ることしかできない。

どうしてくれるんだ、とね。
< 4 / 4 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:4

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

たぶんきっとおそらくだけど彼は来ない
紅 憐/著

総文字数/1,477

恋愛(その他)2ページ

表紙を見る
-Gulen-
紅 憐/著

総文字数/8,046

絵本・童話25ページ

表紙を見る
今宵、桜と月の下で
紅 憐/著

総文字数/3,047

恋愛(その他)8ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop