幻妖奇譚
 午後5時

 町中の花屋をかけずり回り、両手いっぱいのガーベラを手に入れた。

「よし!これだけあれば」

 教授から無理やり聞き出した彼女の住所は記憶している。


 出会った時、親元にいた彼女、今は踏切に程近いアパートで一人暮らしを始めていた。

 僕の為にわざわざ親元から離れて、花嫁修行なんて……。ますます彼女が愛しく感じる。

 アパートの前だと彼女が恥ずかしがるかもしれない。踏切の向こう側から、彼女を待ち伏せしよう。


 待つ事一時間。

 早くしないとせっかく買ったガーベラはもちろん、やっと咲いた薔薇までもが萎れてしまう。

 そう思った時、見覚えのある笑顔の女性が目に入った。

 以前の髪型と違ってはいたが、一目で彼女だとわかった。


 そしてもうひとつ、違う所があった。彼女の隣りには見た事のない男が一緒にいる。

 楽しそうに笑う彼女の手は、隣りにいる男の手に包まれるように繋がれていた。


「誰だ? あの男……」


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