幻妖奇譚
 幸せそうな2人。まさか、教授の言っていた事が真実なのか?

 いや、そんなはずはない。例えそうだとしても、僕に対するあてつけで一時的な物だ。

 だって彼女は僕に惚れているんだから。

 意を決し、2人の前に歩み出る。一瞬、彼女の顔が固まったが、すぐに笑顔を見せた。

「リョウ君? どうしたの?」

「あ、あの……咲いたんだ」

 少し困った表情の彼女。抱えられているガーベラを見て微笑む。

「咲いたって……このガーベラ? 研究してるのって薔薇だったよね?」

 覚えてくれていた!!やはり彼女は僕の運命の女性だ!
 未だしっかりと繋がれたままの手は気になるが、嬉しくて顔がニヤける。

「う、うん。薔薇。ま、真ん中」

 両手が使えない為、顎で薔薇を指し示す。

「へえ!? 凄いね、咲いたんだぁ~! わざわざ見せに来てくれたの?」

 頭をぶんぶんと振って頷く。

「なぁ、俺、腹減ったんだけど」

 彼女の隣りにいる男に促され、「じゃあね」と立ち去ろうとする彼女。

「ま、待って!」

 まだ何かあるのか、とうんざりする男を制す彼女。

「あ、あの……今まで研究ばかりで構えなくて、その、ごめん」

 柔らかく微笑み、頷く彼女。


「だ、だから、これからは君にさみしい思いはさせないから! 薔薇も咲いたし……」


 そこまでを黙って聞いていた男が、僕と彼女の間に割って入って来た。



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