幻妖奇譚

∽リョウ∽

 ……なんだ?何が起きた?突然、何かがぶつかって来た……。

 目線を下に向けると僕の足下に、男の後頭部が見える。

 この服……こいつ、彼女と一緒にいた男だよな?なんでこんな所で寝てるんだ?

 ああ、思い出した。確か、こいつに投げられた花を拾って……最後の薔薇を拾おうとして……。

 まさか、こいつ――!!

 僕の薔薇を狙ったのか!?

 男の真っ赤な血が次第に辺り一面に広がっていく。その血が僕のズボンやシャツに染み付く。

 その血を避けようと体を動かすが、ぴくりとも動かない。

 冗談じゃない!こんな男の血に汚されてたまるもんか!!

 全身に力が入らない。それでも、必死に起き上がろうと踏ん張っていると、ふっ、と体が軽くなり、そのままひと息に立ち上がる。

 僕の……“抜け殻”が同じ様に寝っ転がっている。

 辺りはかなり騒然としている。その人垣の中、ひときわ大きな声で泣き叫んでいる女。

 彼女だ――!!

 こっちに来ようとしているのを、周りの人達に止められている様だった。

 あんなに泣いてる……。僕のために……。
 早く安心させてあげよう。僕はここだ、と。抱き締めてあげなきゃ!!

 彼女の元へ急ごう!!
 その時、強い力で後ろに引っ張られた――。



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