幻妖奇譚
 まさか、僕をネタに怪談話をしているのか?

 ふざけるな!僕はまだ生きてる!!

 そう憤慨した瞬間、長い髪の女に吸い込まれる様に入ってしまった。

 なんだ?どうなってる?急激に地球の重力を感じる。

「このままほっとくワケにいかないじゃん!!」

 バタバタと走る音が聞こえる。おいおい……。曲がりなりにも年頃の女なんだから、もっとしとやかに行動しろよ……。

「はー……。ちょっと勘弁してよねー」

 僕が長い髪の女に入ったって事は、眼鏡の女と髪の短い女のどちらかだろう、溜め息が聞こえた。

「ヨシエってば、必要以上に怖がらせるんだから。だいたい設定からしておかしいのよ」

 僕に話しかけてるのか、それとも独り言か。

「今時、花束抱える男なんていないっつーのよ! もしいたら天然記念物か化石だわ」

 化……石?化石だって?天然記念物?僕が?

 ふつふつ、と怒りが込み上げて来る。

 馬鹿にしやがって……馬鹿にしやがって!馬鹿にしやがって!!

 この僕を侮辱するなんて、この女……許さない!!!!

 かっ、と目を見開き、女を睨み付ける。

『僕ヲ侮辱スルナ!!』
 体がまだ思う様に動かないが、頭の中に薔薇のつるを思い浮かべ、それを目の前の女に巻き付けた。



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