幻妖奇譚
 踏切近くの彼女が暮らしてるアパートへ向かおうとした。

 が、またあの強い力が僕を引っ張っている。

 嫌だ!彼女の笑顔を見るまでは!!彼女に会って、彼女が生きてる事を確かめるんだ!!

 しかし抵抗空しく、またも視界が真っ正面しか見えない。

 また薔薇になった……。

 彼女に会いたい!会わせてくれ!!

「……本当にいいのかよ?」

 ……誰だ?誰かいるのか?

「いんじゃね? 教授が言ったんだからさ」

 なんだ?こいつら……。ここは……研究室じゃない。風が吹いている、と言う事は外か?

「しっかし……この薔薇、マジでずっと咲いてるんだな」

「ああ。あの事故以降、水もやってねぇってのに枯れる気配ないってよ」

「けど、研究材料だったんだろ? 燃やしちまうなんてもったいねぇよな」

 燃やす?こいつらまさか……。

「じゃ、お前持って帰るか? 俺いらねぇよ、気味ワリィし」

 しゅぼっ、とライターを擦った音が聞こえる。

 やめろ……やめてくれ!僕を燃やさないでくれ!!

 そんな声が聞える筈もなく、花びらに火が点けられた。

「お~ッ! すげぇ!!よく燃えるなぁ!!」

 いやだ……僕はまだ生きてるんだ!僕の薔薇……僕が作った薔薇が燃える。熱い!!……誰か……頼む……助けて……く……。





  第一夜 花 Fin.

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