幻妖奇譚
 若さゆえの好奇心。散々怖い体験をしてきたチエさえも、身を乗り出してヨシエの言葉に興味津津である。

「この学校の通学路にいくつか踏切があるじゃない? そこで20代の男の人が電車に撥ねられたんだって!」

「ちょっと~! 実話じゃないって言ったじゃない!」

「ここまではね。でもこっからが噂なのよ♪」

 抗議するチエに、軽くウインクをするヨシエ。

「まぁまぁ。とりあえず聞こうよ。でも踏切って何処のなのよ?」

 半泣きのチエをなだめるアケミ。

「それがわかんないから噂なんじゃない? でね、その男の人は、事故当時花束を持ってたらしくって、たくさんの花が一緒にあちこちに散らばってたんだって」

「あちこちにって……まさかスプラッタ?」
 聞かなくてもいいのに、と目で訴えるチエを横目にアケミが問う。

「撥ねたのは各停電車だったから、そこまでスプラッタじゃなかったって話よ」

「なーんだ。で? 夜な夜なその男の人が出て来るとか?」

 ヨシエの話を先読みするアケミ。

「もう! 黙って聞いてよ!! 確かに踏切周辺で男の人の幽霊が出て来るんだけどさ……」

「それの何処がとっておきなのよ!? それこそありがちじゃない?」

 ヨシエに対し、ふふん、と勝ち誇ったようにアケミが胸を張る。


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